Where is the Motivation?
古橋宙征 モチベーションの旅

モチベーションは、「期待を超える喜び」【前編】

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取材日:2015年9月28日

 

インタビュー:
株式会社フォトシンス
代表取締役社長 河瀬航大

 

取材 / 古橋宙征 文 / 片桐暁[Table]

 

 

古橋:この企画の趣旨は、ベンチャー企業の経営者の方に「モチベーション」を中心テーマにお話を聞かせていただくというものです。例えばベンチャーで起業を考えている学生であれば、どんな情報に触れるかで人生観が変わるんじゃないか。法人の社長なら、あらためて考えることがあるのではないか。そんな意図から、取材をお願いさせていただいています。

 

Photosynth 河瀬さん:そういう方々に向けてお話させていただけるのは、大変恐縮です。

 

古橋: 2、3年ほど前に、初めて河瀬さんとお会いした時のモチベーションの記憶が鮮烈でした。現在はさらにさまざまな経験を積まれて、人に触れ、会社を立ち上げ、いまから世界を取りにいくぞ…といった勢いを感じます。まずは河瀬さんの現在をお伺いして、その後、起業に至る経緯などを順にお伺いできればと思っています。

 

河瀬さん:現在はPhotosynthという会社を立ち上げて1年で、このAkerunというプロダクトを軸に、サービスへと展開しようとしているところです。Akerunというのはいわばスマートロックで、これを扉の内側からペタっと貼り付ける。

 

古橋:貼り付けるだけでいいんですか?

 

河瀬さん:はい、これで、スマホやガラケー、Webブラウザで、鍵の開閉や状態確認、権限付与等がすべて可能になります。施錠・解錠は物理操作ですが、操作はデジタルですから、いつ/だれが/どの鍵を使ったかの履歴も残ります。店舗やオフィスなどに、幅広く使っていただいています。

 

古橋:非常に直観的なプロダクトですね。デザインもとても洗練されています。Photosynthは、これでいわゆるIoTの世界に参入し、創業1年で大きく成長しました。これからについては、どのようなモチベーションで、どんな方向性に取り組もうと考えていらっしゃいますか?

 

 

R1-2 Akerunの描き出す世界観

 

河瀬さん:スマートロック市場に参加して、皆さんに使っていただく中で「ここが必要とされているんだな」というポイントが見えてきています。そのニーズを汲み取って、ただプロダクトだ、物販だということではなく、サービス化していきたいですね。当然、プラスαの機能などが必要になる。それを追求していくのが短期スパンの目標でしょうか。

 

それから将来的には「すべての鍵がポケットに収まる」っていうのが、かっこいいなと思うんですよ。人が持っている合鍵の数の平均は、3〜4本です。それらがすべてAkerunアプリに集約されたら、とてもクールだなと。

 

Akerunアプリが入っているスマートフォンであれば、飲食店や空港のラウンジ、漫画喫茶などを自由に出入りできて、自動的に課金されるとか。Akerunはそういう世界のプラットフォームになりうると思っているんです。「Akerunで描ける世界」の実現に向けて動いていくのが、いまの自分のモチベーションといえるかもしれません。

 

古橋:とても興味深い世界観ですね。河瀬さんがそこに到達した経緯であるとか、あるいは経歴などについてお伺いできますでしょうか。以前から、ITの世界に興味があったんですか?

 

河瀬さん:実は幼稚園生の頃からなんですが、元々、環境問題に興味があったんですね。小学校まで、種子島の自然の中で育ちましたから。夏休みには、マングローブに籠って自由研究をしたりだとか。この環境を守りたいなと思ったことが、自分の原点になっています。

 

古橋:モチベーションの原点が、種子島にマングローブですか?面白いお話になってきました。

 

 

R1-3 環境問題への興味から、IoTの世界へ

 

河瀬さん:はい。ですから大学では、化学という方向から環境に貢献できないかと、放射線を研究していたんです。ですが、環境問題を根本的に解決するためには「加害者と被害者がコミュニケーションを取ることが必要」だと気付いた。

 

加害者というのは、僕たち。被害者は、例えば東南アジアなどの、森林が伐採されてしまった国の人々や、未来の子供たちです。そういう人たちが、距離や時空を越えて、ネット上で繋がってコミュニケーションをとる。

 

そうやって「他を思う力」や「共感する力」を生むことで、大きな問題は解決されていくのではないか?要は、どれだけ「自分事化」するかということですね。そうでなければ、例えば家族のことは守れるけど、遠い国の子供達は守れないわけです。

 

その頃は、人と人がネットでつながることに大きな可能性を感じていて。そこで新卒で就職したのがガイアックスでした。正にそれがミッションの会社でしたから。入社したのはFacebookやTwitterが流行り始める少し前、2011年くらいでしょうか。ソーシャルメディアを使って、世の中にどういう声があるのかを分析したり、リスク投稿をピックアップしたり、それをマーケティングに活かすといった業務をしていました。

 

そして、ネットで繋がるのが感覚的には当たり前になってきた頃、もっと面白い世界を描きたいと思うようになった。人と人同士だけじゃなくて、人と物、人とロボット、ロボットと植物や動物とか。ソーシャルメディアの中に色んなモノが入り込むと、さらに面白いんじゃないかと。その観点からIoTに関心を持ったんです。

 

古橋:IoTをイメージされたのはどれくらいの時期で、どういったものに影響されたんでしょうか?

 

河瀬さん:そんなに昔ではなかったと思います。『ソーシャルマシン』という本には特に衝撃を受けました。モノやマシンがソーシャルメディアに取り込まれるといった内容の本です。IoTという言葉が現れて、さまざまな情報が流れてくる中で「これは、自分のやりたい環境問題解決の将来的な手段になるかもしれない」と。その観点から、趣味程度で始めたのがきっかけです。

 

 

R1-4 世界初の「後付け鍵」の誕生

 

河瀬さん:ちょうどハッカソンが流行っていた頃で、2014年の頭ですね。周りにエンジニアも多かったですから、飲み屋で「次、何ハックする?」なんて話をして。電気、家電、自動車とか、当時からネットに繋がっているものはたくさんありました。でも、それを制御できるだけじゃ面白くない。

 

そこで「家」から連想していった時に、ネットで制御できないものは“鍵”だったんです。それに気付いた時は、かなり衝撃的でした。鍵というのは、インターネットどころか電気も通っていない。あえて電気の通ってないところを攻めるっていうのが面白いし、チャンスじゃないか。人がやっていないところが狙い目だと思ったんです。

 

最初は、自宅やハッカソンで実現できる位のクオリティでしか考えていませんでした。本来なら、錠の中や扉ごと改造して、有線で繋ごうって発想しますよね。でも趣味レベルですから、自宅でできる範囲で開発をしていて。サムターン(鍵のつまみの部分)にモーターをガムテープで巻き付けて、物理的に回せばいいだろうとか。それが結果的に「後付けの鍵」を生んだんですね。

 

「後付け」という言葉自体が、世界初で。「これだったら自分の家でも、施工なしでペタッと貼り付けるだけで使える」と、世の中から注目されるきっかけになりました。面白いことをやっている連中がいるということで、去年(2015年)の7 月27日の日経新聞本紙に、大きく掲載していただいたんです。

 

古橋:それはガムテープの時代ですか?

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河瀬さん:さすがにガムテープの段階は超えて(笑)、プロトタイプくらいですね。趣味だったはずなのに思わぬ反響があって。予約が殺到したり、出資の話があったり。ホリエモンさんや(堀江貴文氏)イケハヤさん(イケダハヤト氏)から応援メッセージをいただきました。これだけ期待してくれている人がいるならチャンスがある。趣味でなく、しっかりやろうと。そこで、同じ年の9月1日に創業したんです。

 

古橋:7月に日経新聞掲載、9月に創業ということは、素早く決断されたんですね。

 

 

R1-5 声を上げたところに、人が集まってくれる

 

河瀬さん:はい、一ヶ月くらいで決断して、会社を整理してという感じで。私がガイアックスを辞めたのはPhotosynth創業の少し後でしたが、他のエンジニア2名は、既に8月上旬には退社して、9月1日から開発をしていました。この手のプロダクトは、ビジネスに先駆けて、やはりものづくりから忙しさが始まりますから。

 

古橋:御社は確か、ガイアックスの出資を受けていますよね?

 

河瀬さん:そのお話があったので、早く起業できたんです。Photosynthにはco-founderが6名いるんですが、3名はガイアックスのメンバーです。いまもいい関係でお世話になっている状態ですね。

 

古橋:スタートアップの段階では「会社ってどうやって運営していくんだ?」「これからどうなっていくんだ?」というのが見えにくい段階があると思います。河瀬さんの経験として、スタートアップで、ここからうまく流れていったなというポイントはありますか?

 

河瀬さん:結果的になんですが、僕らはPRに力を入れていた。それが良かったと思っています。どれだけ市場にインパクトを与えられて、期待されているかという雰囲気を出すことが重要なんじゃないかと。

 

法人化よりも前に日経新聞に掲載されたので、まずは一部で知名度を獲得することができた。その中で出資のお話もいただきましたし、予約が集まったので、これなら売上が出るだろうとの予測もついた。そこでスタートが切れたんだと思います。

 

ですから「自分がしたいことは何か」。その旗をモチベーションとともに掲げて、なるべく対外的に発信していくことで、ファンや資金を集めることが重要だったんだなと、後から思います。資金に困らずやって来られたのも、そういった社会的な期待値のお陰でしたし。

 

 

R1-6 約50社、70名の記者会見で披露できた“強み”

 

古橋:立ち上げの時期に、記者会見をされていましたよね?何名くらい集められたんですか?

 

河瀬さん:今年(2015年)の3 月23日ですね。50社くらい、70名ほどの記者の方々にお集りいただいて。

 

古橋:すごいですね。ベンチャー企業がその規模で記者会見をするというのは、なかなかないと思いますが…

 

河瀬さん:ええ、おかげさまで。IT系、Webメディア、新聞、テレビ。知っているところにはすべてお声がけさせていただいて、結果、ほとんどの皆さまに来ていただきました。

 

IoTの分野というのは、注目度の高さにも関わらず、ものづくりもできて、ソフトの開発もできるベンチャー企業というのがなかったんです。OEMで作るとか、ソフトウェアをやってデバイスは買って…といった企業はあったんですが。

 

僕らの場合は、ソフトウェアはもちろん、筐体の設計からエレクトロニクスやファンに至るまで、全部ここ(自社)でやっているんですよ。工場だけは切り分けていますが、デザインから部品調達までは全部やっています。そういうことができるベンチャー企業って、いままでなかったんです。

 

 

R1-7 Akerunに籠った「ものづくり」の精神

 

河瀬さん:この小さな規模で、どうやって「ものづくり」に取り組んでいくのか。若手メンバーばかりでしたから、じゃあ、リタイアされた方々などにも協力いただこうとか。それによってものづくりのやり方が変わってくるとか。そういった面白い発見もあったので、記者会見についてもその経験を活かして。IoTの切り口からものづくりの切り口まで、さまざまな露出を仕掛けました。それもあって、会見当日までに上手くリレーションが作られていたんじゃないかと思います。

 

古橋:会見の3月23日までに、ご苦労されたことなどありましたか?

 

河瀬さん:「量産の壁」ですね。これは圧倒的でした。例えばプロトタイプを作るのに必要な力を10とするなら、量産には100が必要なんです。

 

古橋:その壁は、どうやってクリアされたんですか?

 

河瀬さん:いろんな壁があったんですが、一番の壁は、ものづくりフィールドのメンバーと、IT側の僕とのコミュニケーションです。

 

結局のところ、テクノロジーについては、必ず日本のどこかに存在する。できないということはないです。ですから、自分の考えているプロダクトを、どれだけスピード感を持って高品質で世に出せるかというところは、コミュニケーションにかかっている。

 

僕自身は、Akerunは3ヶ月くらいで出せると思っていたんですね。ですから「創業して年内には出す」って言っていたんですが、実際に取り組み始めたら「ものづくりをなめるな」と、相手にもされなかった。お叱りのメールを日々いただいて、肩身が狭かったです。ものづくりというのは、素人が入って行けない世界なんじゃないかと感じることもありました。

 

 

R1-8 コミュニケーションで歩み寄り、摺り合わせる

 

河瀬さん:当初は「1年半はかかる」と言われたんですね。それで僕が「コアな部分だけでも出したい」と返す。すると「金型を一度つくったら、それだけで数千万単位のお金がかかる」「じゃあバージョンアップできるようにすればいいんじゃないか」…そういったやり取りを繰り返していったんです。

 

ですからAkerunでは、ファームウェアがアップデートされます。機能としては、単純に錠を回す。あとはメモリが積んであるだけです。どういうロジックで開けるか、どんなタイミングで音が出るか、回転角度はどれくらいか…全部Web上でハードの変更ができるんです。IT側でそういった仕様にしつつ、ものづくりの側のスピードもなるべく上げるというかたちで進めました。その結果、半年ほどで市場に出すことができたんです。

 

やはり、コミュニケーションですね。最初に生じた両者のギャップに対してのコミュニケーションだったり。モーターひとつをとっても、地方まで、モーターやギアをつくっている職人さんに頭を下げに行ったり。普通に中国から買ってもいいんですが、なるべく小さく、トルクを強くしたかったので。そうやって足を使って、工場を回ってというのは、苦労したところです。

 

 

古橋:大変さが伝わってくるお話です。そこで、テーマであるところのモチベーションなんですが…

→モチベーションは、「期待を超える喜び」【後編】へ続く

 

 

株式会社フォトシンス (Photosynth Inc.)
http://photosynth.co.jp/

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